
なんとかして女を嫌いになりたい、そして諦めたい。 そして別の女に恋ができたら楽になれるのに・・・と平中は思い、侍従の君の悪い噂を探してまわるが何一つ見つけることができない。
思いは募るばかり、やはりあの女が恋しくて恋しくて・・・。
女も面倒くさいかも知れないが、男だってけっこう面倒くさいものなのである。
焼き付いてしまったものはなかなか消せないのである。
侍従の君を手に入れたいと思う心は、それが不可能であるとするとベクトルを屈折して何とかして諦める方法を模索するのである。
遂に奇策を考え出す。
侍従の君の
おまるを盗む事にしたのである。 それも済んだ直後のおまるをである。 さすがに中身を見れば幻滅を感じることだろうと思った。
平中は女の童が女の局(つぼね)より、香染めの薄物におまるを包んで出てくるのをこっそりと後を付けて行き、取り上げる。
誰もいないところへ行って蓋を開けてみた。
ぷんと匂った、それは丁字の香りだった。 よくよく見ると淡黄色の水と黒ずんだ黄色の物体が3切れほど。
糞のわりには匂いがどうも良すぎる。 馥郁たる黒棒の香り。
木片で突き刺して嗅いでみる、そして舐めてみる。
尿に見せかけたのは丁字の煮汁で、糞も偽物、甘く味付けされている。
こんな事をした侍従の君は尋常の女ではない。
ああ恋しい恋しいは募るばかりで、本当の恋の病で死んでしまう。
女には夢中になるものではないというお話である。